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膵臓がん(すいぞうがん)

更新・確認日:2020年09月08日 [ 履歴 ]
履歴
2020年09月08日 「膵癌診療ガイドライン2019年版」より、内容の更新をしました。
2017年07月25日 「膵癌診療ガイドライン 2016年版」より、内容の更新をしました。4タブ形式に変更しました。
2014年10月14日 「4.疫学・統計」を更新しました。
2013年04月12日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月20日 内容を更新しました。
1995年12月25日 掲載しました。
診療の流れ、セカンドオピニオンなど、本格的に治療を始める前に知っておいていただきたい情報については以下の「治療にあたって」をご参照ください。

1.膵臓について

膵臓は、胃の後ろにある、長さ20cmほどの左右に細長い臓器です(図1)。右端のふくらんだ部分を膵頭部すいとうぶ(頭部)といい、十二指腸に囲まれています。左側の幅が狭くなっている部分は膵尾部すいびぶ(尾部)といい、脾臓ひぞうに接しています。膵臓の真ん中は体部たいぶといいます。膵臓全体には、膵管という細長い管が、膵臓を貫いて網の目のように走っています。
膵臓には2つの役割があります。食物の消化を助ける膵液をつくり分泌すること(外分泌機能)と、血糖値の調節などをするインスリンなどのホルモンをつくり分泌すること(内分泌機能)です。膵液は膵管によって運ばれ、主膵管という1本の管に集まります。主膵管は、十二指腸乳頭で、肝臓から総胆管を通って運ばれてくる胆汁と合流して十二指腸へと流れていきます。膵臓は、前から見て胃の後ろに位置しています。
図1 膵臓と周囲の臓器の関係
図1 膵臓と周囲の臓器の関係の図

2.膵臓がんとは

膵臓がんは膵臓にできるがんで、多くは膵管の細胞から発生します。その他、膵臓にできる腫瘍には膵管内乳頭粘液性腫瘍すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう(IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)、神経内分泌腫瘍などがありますが、膵臓がんとは異なる疾患とされています。

3.症状

膵臓は、がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感(おなかが張る感じ)、黄疸おうだん、腰や背中の痛みなどが起こります。その他、急な糖尿病の発症や悪化がみられることがあり、膵臓がんを見つけるきっかけになることもあります。ただし、これらの症状は膵臓がん以外の理由でも起こることがあり、膵臓がんであっても起こらないことがあります。

4.患者数(がん統計)

膵臓がんは、日本全国で1年間に約41,000人が診断されます。男女別にみると男性では1年間に約21,200人、女性では約19,800人とやや男性に多い傾向があります。50歳ごろから増加しはじめます。

5.発生要因

血縁のある家族に膵臓がんになった人がいること、糖尿病や慢性膵炎すいえん、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)にかかっていること、喫煙などが、膵臓がんを発生するリスクを高めることがわかっています。

6.予防と検診

1)予防

日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
特に男性では、膵臓がんを予防するためには、禁煙することが効果的であるといわれています。

2)検診

がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。
しかし、膵臓がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。気になる症状がある場合には、医療機関を早めに受診することをお勧めします。人間ドックなど任意で検診を受ける場合には、検診のメリットとデメリットを理解した上で受けましょう。
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わった後の診療としての検査は、ここでいう検診とは異なります。

7.「膵臓がん」参考文献

1)厚生労働省ウェブサイト;がん登録 全国がん登録 罹患数・率 報告 平成29年報告;2020年(閲覧日2020年9月1日)https://www.mhlw.go.jp/index.html
2)日本膵臓学会ウェブサイト;膵癌診療ガイドライン2019 改訂;2020年(閲覧日2020年9月1日)http://www.suizou.org/index.htm
3)日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.患者・市民・医療者をつなぐ膵がん診療ガイドライン2019の解説.2020年,金原出版.
4)日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.膵癌診療ガイドライン2019年版 第1版.2019年,金原出版.
5)日本膵臓学会編.膵癌取扱い規約 第7版.2016年,金原出版.
6)日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第5版.2018年,南江堂.
7)UICC日本委員会TNM委員会訳.TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版.2017年,金原出版.
8)Koyanagi YN,et al.Smoking and Pancreatic Cancer Incidence:A Pooled Analysis of 10 Population-Based Cohort Studies in Japan.Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.2019;28(8):1370-1378.
更新・確認日:2020年09月08日 [ 履歴 ]
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2020年09月08日 「膵癌診療ガイドライン2019年版」より、内容の更新をしました。
2017年07月25日 「膵癌診療ガイドライン 2016年版」より、内容の更新をしました。4タブ形式に変更しました。
2016年12月07日 「膵癌取扱い規約 第7版(2016年)」より、「2.病期(ステ−ジ)」を更新しました。
2014年10月14日 「2.病期(ステ−ジ)」を更新しました。
2013年04月12日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月20日 内容を更新しました。
1995年12月25日 掲載しました。
症状や膵臓がんを発生させる危険因子(糖尿病や慢性膵炎など)があったり、血液検査や超音波検査で異常が見られたりすることにより、膵臓がんが疑われる場合には、造影CT検査、造影MRI検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)を行います。これらの検査によって診断されなかった場合には、内視鏡的逆行性胆管膵管造影ないしきょうてきぎゃっこうせいたんかんすいかんぞうえい(ERCP)などを行います。可能な限り細胞診や組織診による病理診断を行って、総合的に判断します(図2)。
図2 膵臓がんの診断の流れ
日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編「膵癌診療ガイドライン2019年版」(金原出版)より作成

1.血液検査(血中膵酵素)

膵臓がんにより、血液中の膵酵素(血清アミラーゼ、エラスターゼ1など)が増加していないかを調べる検査です。しかし、がんがあっても増加していないことや、他の病気によって増加していることがあります。

2.腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的につくられる物質です。膵臓がんでは、CA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEA、CA50などを血液検査で測定します。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇しないこともありますし、逆にがんがなくても上昇することもあります。

3.超音波(エコー)検査

がんの位置や形、臓器の形や状態、周辺の血流の様子などを確認するための検査です。体の表面に超音波の出る超音波プローブ(探触子たんしょくし)を当て、体内の臓器からはね返ってくる超音波を画像として映し出します。検査での痛みはなく、その場で確認することができます。

4.CT検査

がんの存在や広がりを見たり、リンパ節や他の臓器への転移を確認したりするための検査です。X線を体の周囲から当てて、体の断面を画像にします。膵臓がんでは、がんの位置や形を細かく映し出すために造影剤を使います。

5.MRI検査

がんの存在や広がりを見たり、他の臓器への転移を確認したりするための検査です。磁気を使用して、体の内部を映し出しさまざまな方向の断面を画像にします。がんと正常な組織を区別して映し出します。より詳しく調べるために造影剤を使うことがあります。

●MR胆管膵管撮影(MRCP:Magnetic Resonance Cholangiopancreatography)

胆管や膵管の状態を詳しく調べる検査です。MRIを撮影して得られた情報をもとに、コンピューターを使って胆道、膵管の画像を構築します。内視鏡や造影剤を使わずに、後述の内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と同様の画像を得ることができ、患者さんの負担が少ないので、ERCPの代用として行うことが多くなっています。

6.超音波内視鏡検査(EUS:Endoscopic Ultrasonography)

先端に超音波プローブをつけた内視鏡を口から入れ、病変を確認します。腫瘍の組織を調べるために、針を刺して腫瘍の細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺せんし吸引生検(EUS-FNA)を行うこともあります。

7.内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP:Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)

口から内視鏡を入れ、先端を十二指腸まで進めた後、十二指腸乳頭(膵管と胆管の出口)に細い管を通して造影剤を注入し、膵管や胆管をX線撮影します。この際、膵管内の細胞を採取する膵液細胞診検査を行うこともあります。他の検査で診断が確定しなかった場合に行われることがある重要な検査ですが、急性膵炎などの合併症を起こすことがあります。

8.細胞診・組織診

がんかどうか、どのような種類のがんかについての診断を確定するための検査です。超音波内視鏡検査(EUS)を使った超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)や、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を使った膵液細胞診検査などで採取された細胞や組織を、顕微鏡を使って診断します。

9.PET検査

進行がんでの他の臓器への転移などについて確認するための検査です。放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を画像にします。CT検査やMRI検査など他の検査では診断がはっきりしない場合に追加で行われる検査です。
更新・確認日:2020年09月08日 [ 履歴 ]
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2020年09月08日 「膵癌診療ガイドライン2019年版」より、内容の更新をしました。
2020年02月27日 「5.生存率」の参照先を「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」としました。
2017年07月25日 「膵癌診療ガイドライン 2016年版」より、内容の更新をしました。4タブ形式に変更しました。
2016年12月07日 「膵癌診療ガイドライン2016年版」より、「図2 膵臓がんの臨床病期と治療 」を更新しました。
2016年02月10日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2014年10月14日 「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2013年版」を反映しました。
2014年10月03日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2013年04月12日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月20日 内容を更新しました。
1995年12月25日 掲載しました。
膵臓がんの治療には、手術、薬物療法、放射線治療があります。がんが切除できる場合は、手術のみ、もしくは手術と薬物療法、放射線治療を組み合わせた治療(集学的治療)を行います。切除できない場合は、主に薬物療法や薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療を行います。がんの進行の状態によっては、緩和ケアのみを行う場合があります。
膵臓がんは、消化器がんの中でも手ごわいがんの1つですが、有効な治療法の開発が活発に行われています。

1.病期と治療の選択

治療法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。

1)病期(ステージ)

病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的で、膵臓がんでは早期から進行するにつれて0期〜IV期まであります。病期は、がんの大きさ、周囲への広がり(浸潤)、リンパ節や他の臓器への転移があるかどうかによって決まります(表1、2)。全身の状態を調べたり、病期を把握する検査を行ったりすることは、治療の方針を決めるためにとても重要です。
膵臓がんの病期の分類には、日本では「膵癌取扱い規約(日本膵臓学会編)」(表1)、または「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」(表2)が用いられ、次のTNMの3種の分類(TNM分類)の組み合わせで決められていきます。
Tカテゴリー:がんの大きさや周囲への広がりの程度
Nカテゴリー:リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:他臓器などへの転移(遠隔転移)の有無
表1 膵臓がんの病期(日本膵臓学会)
日本膵臓学会編「膵癌取扱い規約 2016年7月第7版」(金原出版)より作成
表2 膵臓がんの病期(UICC第8版)
UICC日本委員会TNM委員会訳「TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版(2017年)」(金原出版)より作成

2)治療の選択

治療法は、がんの進行の程度に基づいた標準治療を基本として、体の状態、年齢、本人の希望なども含めて総合的に検討し、担当医と患者がともに決めていきます。
膵臓がんではまず、手術ができるかどうかについて検討し、「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」のどの状態であるかを調べます(図3)。手術ができる場合は、手術のみ、もしくは手術と薬物療法を組み合わせた治療を行います。がんが膵臓周辺の大きな血管を巻き込んでいたり、別の臓器に転移したりして手術ができない場合は、薬物療法や化学放射線療法を行います。
図3 膵臓がんの治療の選択
日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編「膵癌診療ガイドライン2019年版 P93」(金原出版)
改訂2019年10月 日本膵臓学会 HPにて公開(http://www.suizou.org/pdf/guide2019_P93.pdf)より作成

●妊娠や出産について

がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊よう性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能か、治療開始前に担当医に相談してみましょう。

2.手術(外科治療)

膵臓がんの治療では、手術でがんを切除できると考えられる「切除可能」である場合、できる限り手術をします。
がんが周囲の血管を巻き込んでいるなどの理由で、手術でがんを取り切れるか判断が難しい「切除可能境界」である場合は、手術を行う前に、化学療法や化学放射線療法を行って、治癒につながる切除が可能か否かを再検討した後に、手術を行うことがあります。

1)手術の種類

膵臓がんの手術には、幽門輪温存ゆうもんりんおんぞん膵頭十二指腸切除術、亜全胃温存あぜんいおんぞん膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術があります。

(1)幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)・亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)

膵頭部を中心にがんがある場合、十二指腸、胆管、胆のうを含めて膵頭部を切除します。がんが胃の近くにある場合は胃の一部を、がんが血管を巻き込んでいる疑いがある場合は血管の一部も切除します。
これまでは、胃の2/3の切除を伴う膵頭十二指腸切除術(PD)が広く行われていました。最近では、できるだけ切除する範囲を少なくする、胃のすべてを残すPPPDや胃の大部分を残すSSPPDに変わりつつあります(図4、5)。切除後は、残った膵臓を小腸につなぎ合わせ、膵液が小腸に流れるようにします(再建手術)。同様に、胆管と小腸、胃と小腸もつなぎ合わせます。
図4 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)で切除する範囲
図4 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)で切除する範囲の図
図5 亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)で切除する範囲
図5 亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)で切除する範囲の図

(2)膵体尾部切除術

膵体尾部のがんの場合、膵臓の体部と尾部を切除します。通常は脾臓ひぞうも摘出します。消化管は切除しないので、消化管同士をつなぎ合わせる再建手術は必要ありません(図6)。
図6 膵体尾部切除術で切除する範囲
図6 膵体尾部切除術で切除する範囲の図

(3)膵全摘術

がんが膵臓全体に及ぶ場合は、膵臓をすべて摘出します。膵臓をすべて摘出することによって膵臓の機能が失われることになります。例えば、膵臓から出ていたインスリンや消化酵素が分泌されなくなることでこれらを補う治療を続けることが必要となります。

2)手術後の合併症

手術方法により異なりますが、一般的には、膵尾部よりも膵頭部の切除のほうが、腸とつなぎ合わせる部位が多いため、回復に時間がかかります。また、がんの位置によっては、腸の動きを調整する神経も一緒に切除するため、下痢を起こしやすくなります。

(1)膵頭十二指腸切除術の合併症

切除した部分や、つなぎ合わせた部分から胆汁や膵液が漏れることがあり、感染、腹膜炎、出血が起こることがあります。また、胃の動きが整わず、食事がうまく食べられなかったり、吐き気が起こったりすることがあります。その場合には、胃の動きが回復するまで点滴などで栄養を補うことがあります。胆汁がたまって胆管炎が起こることにより高熱が出た場合には、抗菌剤を服用します。

(2)膵体尾部切除術の合併症

脾臓を摘出した場合には、肺炎球菌などの細菌に対する抵抗力が落ちるため、肺炎球菌ワクチンを予防接種することもあります。

(3)膵全摘術の合併症

糖代謝の障害(糖尿病)や、消化吸収障害、脂肪肝などが、多くの場合起こります。糖尿病に対しては、定期的にインスリンを使用することがあります。また、消化吸収障害、脂肪肝に対しては、膵液のかわりになる消化剤を服用します。

3.放射線治療

膵臓がんでの放射線治療には、根治を目指す化学放射線療法と症状緩和を目的とした放射線治療の2つがあります。

1)化学放射線療法

放射線治療と化学療法(細胞障害性抗がん薬による治療)を組み合わせた治療です。明らかな遠隔転移はないものの、がんが膵臓周辺の大きな血管を巻き込んでいる場合に行われます。化学療法と組み合わせることで治療の効果を高めることが期待でき、標準治療の1つとして推奨されています。

2)痛みなどの症状緩和を目的とした放射線治療

骨転移などによる痛みなどの症状を和らげる1つの方法として、実施することがあります。

●放射線治療の副作用

放射線を当てる場所や放射線の量などによって症状は異なりますが、一般的には、皮膚の色素沈着、吐き気・嘔吐おうと、食欲不振、白血球の減少などです。まれに胃や腸の粘膜が荒れて出血することで、黒い便が出ることもあります。

4.薬物療法

膵臓がんの薬物療法では、細胞障害性抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬を使います。

1)術前補助化学療法・術後補助化学療法

手術でがんを切除可能な場合、手術の前や後に一定期間、化学療法を受けると、再発しにくくなったり、生存期間が延長したりすることが示されています。そのため、手術の前後に化学療法を行います。なお、病期が0期の場合には、手術の前後には化学療法を行いません。
一般に以下のような薬を使います。
  • テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1:ティーエスワン)
  • ゲムシタビン
※薬の名前は「一般名(商品名)」で示しています。記載方針については関連情報をご覧ください。

2)手術できない場合に用いる化学療法

手術ができない場合や再発した場合にも、がん自体の進行を抑え、延命および症状を和らげることを目的とした化学療法を行います。また、放射線治療と組み合わせた化学放射線療法を行うこともあります。
一般に以下のような薬を使います。
  • ゲムシタビン単剤治療
  • テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤
  • FOLFIRINOX療法 (フルオロウラシル[5-FU]+レボホリナートカルシウム+イリノテカン+オキサリプラチン)
  • ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法

3)化学療法後に進行・再発した場合に用いる薬物療法

化学療法を行っても進行・再発した場合には、それまでの治療で使っていないほかの薬での治療を行います。
特定のがん遺伝子検査の結果、遺伝子変異があった場合には、以下の薬を使うこともあります。
  • ぺムブロリズマブ(キイトルーダ)※1(免疫チェックポイント阻害薬)
  • エヌトレクチニブ※2※3(分子標的薬)
    ※1:がん遺伝子検査でMSI検査高度陽性(MSI-High:遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合にのみ使用します。
    ※2:がん遺伝子検査で、NTRK融合遺伝子陽性(正常なNTRK遺伝子の一部が他の遺伝子と何らかの原因で融合した異常な遺伝子)の場合にのみ使用します。
    ※3:承認されて間もない薬のため、副作用について特に慎重に検討がなされています。(2020年9月現在)

●化学療法の副作用

細胞障害性抗がん薬を用いた治療では、人によっては強い副作用が出ることもあります。特に、口や消化管などの粘膜、髪の毛、骨髄こつずいなどの新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすいため、口内炎、下痢、吐き気、脱毛などが起こることがあります。その他、全身のだるさや、肝臓や腎臓の機能に障害が起こることもあります。
多くの副作用は一過性で、症状を抑える薬剤も有効ですが、副作用が強い場合には、治療の休止や変更も検討されます。担当医から、治療の具体的な内容をよく聞き、不安な点やわからない点は十分に話し合った上で、納得できる治療を選びましょう。

5.免疫療法

免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2020年9月現在、一部の膵臓がんの治療に効果があると科学的に証明されているものは、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブを使用する治療法のみです。
その他の免疫療法で、膵臓がんに対して効果が証明されたものはありません。
※がん遺伝子検査でMSI検査高度陽性の場合にのみ使用します。

6.合併症に対する治療

1)黄疸おうだんや胆管炎に対する治療

膵頭部には胆管が通っています。がんができることで、胆管が狭くなったりふさがれてしまったりすることが原因となって、胆汁が肝臓から十二指腸へ正常に流れずにたまってしまうことがあります。その結果、肝機能障害や黄疸のほか、胆汁に細菌が感染して胆管炎が起こることがあります。上腹部の痛みや高熱、黄疸が出た場合には担当医に相談しましょう。
たまった胆汁を排泄するために、管を胆道に挿入する「胆道ドレナージ」を行うことがあります。以下の方法がありますが、通常は体の負担が少ない内視鏡的胆道ドレナージが推奨されます。胆道とは、胆汁の通り道である胆管、胆のう、十二指腸乳頭の総称です。
  • 内視鏡的胆道ドレナージ(ERBD):狭くなった胆管に、内視鏡を用いて管(ステント)を挿入して、胆管を広げる方法
  • 内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD):内視鏡を用いて、鼻から胆管にチューブを挿入する方法
  • 経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD):おなかの皮膚から肝臓を経由して胆管にチューブを挿入し、胆汁を体の外に出す方法

2)消化管などの閉塞へいそくに対する治療

(1)十二指腸ステント術

膵臓がんによって、胃や十二指腸が狭くなっている部分に金属でできた管(ステント)を入れて広げ、食べ物の通り道をつくります。

(2)バイパス手術

がんの切除ができない場合に、症状を改善する目的で行う手術です。十二指腸ががんでふさがっている場合には、食事が取れるように、胃と空腸(小腸の一部)をつなぐバイパス術(胃空腸吻合ふんごうバイパス施術)を行うことがあります。また、胆管ががんでふさがっていて黄疸が出ている場合には、胆管と空腸をつなぐバイパス術(胆管空腸吻合バイパス術)を行うことがあります(図7)。
図7 胃空腸吻合バイパスと胆管空腸吻合バイパス
図7 胃空腸吻合バイパスと胆管空腸吻合バイパスの図

7.緩和ケア/支持療法

がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などの辛さも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
なお、支持療法とは、がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
がんによる痛みが強い場合には、非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬が使われることがあります。
関連情報
緩和ケア

8.リハビリテーション

治療の途中や終了後は、体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示のもと、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などを、リハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。

9.臨床試験

よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
現在国内で行われている臨床試験(医師・研究者が実施する臨床試験、および製薬企業や医師が実施する治験の一部)に関しては、「がんの臨床試験を探す」で情報を閲覧することができます。参加できる臨床試験があるかについては、担当医に相談してみましょう。

10.生存率

がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示されます。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
なお、生存率には大きく2つの示し方があります。1つは「実測生存率」といい、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率です。他方を「相対生存率」といい、がん以外の死因を除いて、がんのみによる死亡を計算した生存率です。
以下のページに、国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センターが公表している院内がん登録から算出された生存率を示します。ここでは、科学的根拠に基づく情報を迅速に提供する目的で、5年生存率より新しいデータで算出をした3年生存率についても情報提供をしています。
※データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者さんに当てはまる値ではありません。

11.転移・再発

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果により縮小したりなくなったりしたようにみえたがんが再び出現することをいいます。

1)転移

膵臓がんは、がんが小さいうちから膵臓周辺のリンパ節や肝臓に転移しやすい特徴があります。また、腹膜播種ふくまくはしゅといって、おなかの中にがん細胞が散らばって広がることがあります。
転移すると、再度手術できる場合はまれで、薬物療法や放射線治療のほか、痛みや食欲の低下といった症状に応じた緩和ケアを行うことが一般的です。

2)再発

再発した場合には、それぞれの患者さんの状況に応じて、総合的に治療方法を判断し、その後のケアを決めていきます。
更新・確認日:2020年09月08日 [ 履歴 ]
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2020年09月08日 「膵癌診療ガイドライン2019年版」より、内容の更新をしました。
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1.日常生活を送る上で

病状や、手術の方法、治療の状況により、日常生活の注意点は異なります。自分の体調をみながら、担当医と注意点などをよく相談して無理のないように過ごしましょう。

1)手術後の日常生活

(1)消化のよい食事をとる、食事のとり方を工夫する

手術によって、脂肪の消化吸収に重要な胆汁や消化酵素を含む膵液が減少したり、分泌されなくなったりすることがあります。その結果、消化不良による下痢などを起こしやすくなるので、食事は、バランスよくなるべく消化のよいものを取りましょう。管理栄養士に相談することで、個々の状況にあった献立や調理の工夫を聞くことができます。また、バイパス手術後の食事についても相談できます。
食事のとり方の工夫には、例えば次のようなものがあります。
  • 食事は控えめの量から少しずつ:消化や吸収に時間がかかることがあります。
  • 少量ずつ何回かに分ける:一度にたくさん食べると消化吸収が追いつかないことがあります。3食以外にも間食を取り栄養を補いましょう。
  • 脂肪分を取りすぎない:動物性脂肪を控え、植物性脂肪を取りましょう。
  • 良質なタンパク質(大豆製品や魚など)を取る。
  • 香辛料は控えめにする。
  • コーヒー、紅茶は控えめにする。
  • アルコール(飲酒)については、医師に確認する。

(2)血糖の変動に注意する

手術で膵臓を切除した場合、糖尿病を発症したり、もともとあった糖尿病が悪化したりすることがあります。その場合は糖尿病専門医の診察が必要になります。
膵全摘術を行った場合には、血糖を下げるホルモンであるインスリンが分泌されなくなるため、自分で注射を打ってインスリンを補います。注射の方法などは、退院前に担当医あるいは看護師、薬剤師から指導を受けます。

2)薬物療法中の日常生活

近年、薬物療法や支持療法の進歩に伴い、通院によって治療を行うことが増えています。仕事や家事、育児など今までの日常生活を続けながら治療ができる一方で、いつも医療者がそばにいるわけではないという不安があるかもしれません。
予想される副作用や出現時期、その対処法について事前に担当医に確認し、外来時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を受けるとよいでしょう。また、副作用については家族や周りの人のサポートを得ながら、自分なりの対処法を見つけることも大切です。

3)性生活について

性生活によって、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。ただし、薬物療法中は避妊しましょう。

2.経過観察

手術後も、回復の度合いや再発の有無を確認するために、定期的に通院して検査を受けます。通院の頻度は個別の状況により異なりますが、少なくとも手術後5年間は必要で、その後も継続して検査を受けることが勧められています。術後2年間は3〜6カ月おきに、その後は6〜12カ月おきに受診します。
診察では、黄疸おうだんの有無や血糖、肝機能、腫瘍しゅようマーカーなどを調べるための血液検査と、腹部の超音波(エコー)、CT、MRIなどの画像検査を行います。
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。