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精巣(睾丸)腫瘍(せいそう(こうがん)しゅよう)

更新・確認日:2012年10月26日 [ 履歴 ]
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2012年10月26日 更新履歴を追加しました。内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1996年08月28日 掲載しました。

1.精巣(睾丸)について

精巣(せいそう)は、男性の股間の陰のう内部にある卵形をした臓器です。左右に1つずつあって、睾丸(こうがん)とも呼ばれています。精巣には、男性ホルモンを分泌する役割と精子を造る役割があり、それぞれ別の細胞によって行われています。男性ホルモンを産生するのがライディヒ細胞、精子を造るもとになるのが精母(せいぼ)細胞です。
【図1 精巣の位置と下腹部の臓器】
図1 精巣の位置と下腹部の臓器
図1 精巣の位置と下腹部の臓器の図
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2.精巣腫瘍とは

精巣にある細胞から発生する腫瘍を、精巣腫瘍と呼びます。精巣腫瘍の多く(約95%)は、精母細胞から発生します。精母細胞のように生殖に直接関係のある細胞を生殖細胞あるいは胚(はい)細胞と呼ぶため、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。

精巣腫瘍にかかる割合(罹患(りかん)率)は10万人に1人程度とされ、比較的まれな腫瘍です。しかし、他の多くのがんと異なり、20歳代後半から30歳代にかけて発症のピークがあり、若年者に多い腫瘍であることが大きな特徴となります。実際に20歳代から30歳代の男性では、最もかかる数が多い固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍)とされています。また、多くの場合でがんになる理由はよくわかっていませんが、精巣腫瘍にかかりやすいリスク因子としては家族歴(家族に精巣腫瘍にかかった人がいる場合)、停留精巣(乳幼児期に精巣が陰のう内に納まっていない状態)があったこと、反対側の精巣に腫瘍があったことなどがあげられます。また、男性不妊症、特に精液検査で異常のある男性で精巣腫瘍のリスクが高いとされています。

3.症状

精巣腫瘍の主な症状は、片側の精巣の腫(は)れや硬さの変化です。しかし、多くの場合痛みや発熱がないため、かなり進行しないと気付かないことも少なくありません。また、精巣腫瘍は比較的短期間で転移(腫瘍(がん)が離れた臓器に移動して、そこでふえること)を起こすため、転移によって起こる症状によって、もともとの病気である精巣腫瘍が診断されることもあります。転移した部位により症状は異なり、例えば、腹部リンパ節への転移の場合では腹部のしこり・腹痛・腰痛などが、肺への転移の場合では息切れ・咳(せき)・血痰(けったん)などがあげられます。

4.病理分類

精巣腫瘍は、病理診断(顕微鏡で、細胞や組織の状態を詳しく観察して診断すること)と腫瘍マーカーの値によって、大きくセミノーマ(精上皮腫(せいじょうひしゅ))とそれ以外の非セミノーマ(非精上皮腫(ひせいじょうひしゅ))の2つに分類されます。この分類により、それぞれの病状や治療方針が異なります。

1)セミノーマ(精上皮腫)

セミノーマ100%で構成される腫瘍は、セミノーマとして分類されますが、その他の腫瘍成分と混合している腫瘍の場合は、治療方針と予後の関係から非セミノーマとして分類されます。また、細胞分類的にセミノーマであっても、腫瘍マーカーのAFPが高値であれば、非セミノーマとして分類されます。セミノーマはAFPを産生しないためですが、肝疾患などのAFP高値を呈する他の疾患に罹患していないことを確認して、治療方針を決めることが大切です。精巣腫瘍が、セミノーマであるか非セミノーマであるかを明らかにすることは、その後の治療方針を決定する上で非常に重要です。その理由は、セミノーマでは放射線治療抗がん剤による化学療法の両方が有効であるのに対して、非セミノーマでは化学療法は有効であっても、放射線治療の効果は低いからです。特に転移のある場合は、一般的にはセミノーマの方が非セミノーマより治療成績は良好です。

2)非セミノーマ

非セミノーマには、腫瘍のもとになった組織の種類によって、胎児性がん、卵黄(らんおう)のう腫(瘍)、絨毛(じゅうもう)がん、奇形腫(きけいしゅ)などの種類がありますが、これらの成分が混在している場合も多くみられます。非セミノーマの6〜7割はI期の段階で発見されますが、そのうち約3割で目に見えない非常に小さな転移があると考えられています。転移の危険性を判定するため、採った組織を調べ、腫瘍細胞が血管やリンパ管に入り込んでいるかどうか(脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう))を確認します。脈管侵襲がある場合は、転移のないI期でも抗がん剤治療などの補助治療を実施した方がよいという考え方もあります。

5.疫学・統計

精巣腫瘍にかかる割合(罹患率)は、年齢別にみると5歳以下(小児)と20歳代後半から30歳代にかけて2つのピークがあり、40歳未満の罹患が全罹患数の約3分の2を占めます。精巣腫瘍による死亡が、がんで亡くなる人全体に占める割合は0.1%未満と少なく、比較的予後のよいがんの部類に入ります。日本人の罹患率は、男性100万人あたり、10〜15人程度と少ないのですが、年々増加傾向にあります。欧州諸国の罹患率は日本の2倍以上であり、アメリカでは人種を問わず高い傾向があります。
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1.腫瘍の診療の流れ

この図は、腫瘍の「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

がんの疑い

  「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく受診しましょう。
   

受診

  受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。
   

検査・診断

  検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。
   

治療法の
選択

  腫瘍や体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。
   

治療

  治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。
   

経過観察

  治療後の体調の変化や腫瘍の再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

2.受診と相談の勧め

腫瘍という病気は、患者さんごとに症状のあらわれ方が異なります。また、症状がなく検診で腫瘍の疑いがあると言われることもあります。何か気にかかる症状があるときや、詳しい検査が必要と言われたときには、医療機関を受診してください。疑問や不安を抱きながらも問題ないとご自身で判断したり、何か見つかることを怖がって、受診を控えたりすることのないようにしましょう。受診して医師の診察を受け、症状の原因を詳しく調べることで、問題がないことを確認できたり、早期診断に結び付いたりすることがあります。

がん診療連携拠点病院がん相談支援センターでは、がん・腫瘍について知りたい、話を聞きたいという方の相談をお受けしていますので、お気軽に訪ねてみてください。その病院にかかっていなくても、どなたでも無料で相談できます。対面だけでなく、電話などでも相談することができますので、わからないことや困ったことがあったらお気軽にご相談ください。

詳しくは、「がんの相談窓口『がん相談支援センター』」をご覧ください。

お近くのがん相談支援センターは「がん相談支援センターを探す」から検索することができます。

3.腫瘍と言われたとき

腫瘍という診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思い詰めてしまっては、心にも体にもよくありません。

この一大事を乗りきるためには、腫瘍と向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

1)情報を集めましょう

まず、自分の病気についてよく知ることです。担当医は最大の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担当医に確認することも大切です。

「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。

2)病気に対する心構えを決めましょう

大きな病気になると、積極的に治療に向き合う人、治るという固い信念を持って臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に向き合うことに尽きるでしょう。

情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。

お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。
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1.触診

最初に陰のう内のしこりについて確認します。腫瘍が小さく、精巣の一部を占めるだけのときには、腫瘍はやわらかい精巣の中に硬いしこりとして感じられます。腫瘍が精巣内をほとんど占めるように広がると、精巣全体が硬いしこりとして感じられます。この時期では、左右の精巣の大きさ、硬さの違いなどから自分で異常を発見することも可能です。また、水がたまった状態をしこりとして感じることもあり、これを水腫(すいしゅ)といいます。しこりが腫瘍か水腫かを判断するために、超音波(エコー)検査を行うこともあります。

2.腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞がつくり出す物質で、腫瘍の種類や性質を知るための目安となるものです。精巣腫瘍の診断では、腫瘍マーカーが重要な役割を果たします。代表的な精巣腫瘍の腫瘍マーカーには、AFP(αフェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)およびhCG-β、LDH(乳酸脱水素酵素)などがあります。これらの腫瘍マーカーは、治療効果の判定や治療後の経過観察にも用いられます。ただし、すべての種類の腫瘍が腫瘍マーカーをつくり出すわけではなく、他の病気によってこれらの腫瘍マーカーの数値が上昇することもあります。
【精巣腫瘍に関係する腫瘍マーカーについてさらに詳しく】

1)AFP

血中AFP高値は、非セミノーマの方の40〜60%に認められます。セミノーマはAFPを産生しないので、分類上も大切な腫瘍マーカーです。ただし、肝疾患など精巣腫瘍以外でも上昇することがあるので、注意が必要です。

2)HCG

血中HCGの上昇は、セミノーマの一部(I期で10〜20%)と非セミノーマの40〜60%に認められます。精巣摘除後の精巣腫瘍の患者さんの中で、血中のAFPあるいはHCGが明らかに上昇している場合は、X線検査などで転移が見つからなくても、治療の適応となる場合があります。

3)LDH

セミノーマでも非セミノーマでも上昇する可能性があります。しかし、LDHは精巣腫瘍とは無関係のさまざまな状況でも高くなる可能性があるため、LDHの上昇の意義はAFPやHCG と比べて重要ではありません。
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3.画像診断(超音波[エコー]、CT、MRI検査など)

画像診断は、腫瘍の性状や広がり、転移の有無を調べるために行われます。

超音波検査では、陰のうの表面に超音波を当てて臓器から返ってくる反射の様子を画像にすることで精巣の内部を観察します。多くの場合、超音波検査によって腫瘍を確認することが可能です。そして、血液の流れがわかるカラードップラー超音波検査では、腫瘍の血流についても調べることができます。また、腹部超音波検査を行い、肝臓やリンパ節への転移の有無を調べることもあります。

CT検査は、X線を用いて体の内部を描き出す検査です。腫瘍の状態や周辺の臓器への広がり、肺やリンパ節などへの転移の有無を調べることができます。精巣腫瘍は早期に転移することが多いため、非常に重要な検査となります。より詳しい情報を得るために、通常は造影剤を注入しながら検査を行います。CT検査で造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、喘息(ぜんそく)などのアレルギーのある方や以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、医師に申し出てください。

必要に応じて、MRIや骨への腫瘍の広がりを調べる骨シンチグラフィーなどの検査も行われます。MRIは磁気、骨シンチグラフィーは放射性同位元素を使った検査です。なお、FDG(放射性ブドウ糖類似物質)を注射し、細胞の糖代謝の状態を撮影することでがん細胞を検出するPET検査は、セミノーマに対しては有効である場合がありますが、非セミノーマに対する有効性は確認されていません。

4.病期(ステージ)

病期とは、がんがどの程度進行しているかを示す言葉で、英語をそのまま用いてSstage(ステージ)ともいいます。病期は、腫瘍の大きさや周辺の組織のどこまで広がっているか、リンパ節や別の臓器への転移があるかどうかによって決まります。精巣腫瘍では、病理分類によって治療方法が異なりますので、別の臓器に転移がある場合でも病理診断が重要となります。腫瘍のある精巣を手術によって取り出して調べるとともに、転移の状況を詳しく調べるための追加検査を行います。

ローマ数字が使われ、I期、II期、III期などと分類され、数が大きくなるほど、腫瘍が広がっていることを示します。また治療方針の決定に有用であることが多いことから、画像診断などでわかる腫瘍の広がりに加えて、腫瘍マーカーの値も含めるIGCC分類も用いられています。
表1 精巣腫瘍の病期分類(日本泌尿器科学会 日本病理学会/編)
I期 転移がない
II期 横隔膜以下のリンパ節にのみ転移がある
      IIA 後腹膜転移巣が5cm未満
IIB 後腹膜転移巣が5cm以上
III期 遠隔転移
  III0 腫瘍マーカーが陽性であるが、転移巣不明
IIIA 横隔膜以上のリンパ節に転移がある
IIIB 肺に転移がある
B1 片側の肺の転移が4個以下かつ2cm未満
B2 片側の肺の転移が5個以上または2cm以上
IIIC 肺以外の臓器にも転移がある
※陰のう内にとどまる腫瘍は、腫瘍の大きさによる差を見出し難いため、手術の困難さ、転移により分類している。
日本泌尿器科学会、日本病理学会編「泌尿器・病理 精巣腫瘍取扱い規約 2005年3月【第3版】」(金原出版)より作成
表2 IGCC(International Germ Cell Consensus)分類
予後良好
非セミノーマ セミノーマ
肺以外の臓器転移がない。
かつAFP<1,000ng/ml
かつhCG<5,000IU/L
かつLDH<1.5×正常上限値
肺以外の臓器転移がない。
かつAFPは正常範囲内
hCG、LDHは問わない。
予後中程度
非セミノーマ セミノーマ
肺以外の臓器転移がない。
かつ1,000ng/ml≦AFP≦10,000ng/ml
または5,000IU/L≦hCG≦50,000IU/L
または1.5×正常上限値≦LDH≦10×正常上限値
肺以外の臓器転移がある。
かつAFPは正常範囲内
hCG、LDHは問わない。
予後不良
非セミノーマ セミノーマ
肺以外の臓器転移がある。
またはAFP>10,000ng/ml
またはhCG>50,000IU/L
またはLDH>10×正常上限値
該当なし
1977年に提唱されたマーカー値を重視した分類法である。
hCG(Intact hCG)を用いる。日本のFree-β hCGは利用できない。
日本泌尿器科学会、日本病理学会編「泌尿器・病理 精巣腫瘍取扱い規約 2005年3月【第3版】」(金原出版)より作成
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1.臨床病期と治療

精巣腫瘍は進行が速く、転移しやすいという特徴があります。そのため、精巣腫瘍が疑われる場合には、まず病気のある側の精巣を摘出する手術を行います。そして、手術で取り出した組織を顕微鏡で調べる(病理診断)と同時にCTなどの画像診断によって、腫瘍の種類と病期を確定します。腫瘍がセミノーマであるか非セミノーマであるかによって、その後の治療方針と予後(病気や治療などの経過についての見通し)が異なります。下の図は、腫瘍の種類と病期、行われる治療との関係を大まかに示したものです。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください(図2)。
図2 精巣腫瘍の治療方針
図2 精巣腫瘍の治療方針の図
日本泌尿器科学会編「精巣腫瘍診療ガイドライン2009年版」(金原出版)より作成
【治療成績】
化学療法の発達により、転移のある場合でも精巣腫瘍の治療成績は比較的良好です。一般的にはII期以上の患者さんでも70〜80%が治るとされており、最も抗がん剤の治療効果が高い固形腫瘍と考えられています。また、体力のある比較的若年者に多いため、しっかりした抗がん剤治療ができることも治療成績の向上に結び付いていると考えられています。
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2.セミノーマの治療

1)I期

まず、病気のある方の精巣の摘出手術(高位精巣摘除術)を実施します。I期は、精巣のみに腫瘍がとどまっている段階であり、通常はそのまま経過観察となります。しかし、画像診断などで転移が見つからない場合でも1〜2割の患者さんでは、すでに目に見えない転移が起きていることがあります。そのような場合は、1年から2年以内に再発する可能性が高くなります。これに対し予防的に放射線治療や化学療法を実施することにより、再発率が低下することが報告されています。一方、定期的に検査を受けていれば、再発した場合でも抗がん剤治療によりほぼ100%治すことができます。予防的な放射線治療や化学療法を実施した場合、多少なりとも副作用がありますので、一概にどの方法が優れているとはいえません。担当医とよく相談して治療方法を選択することをお勧めします。

2)IIA期

腹部大動脈周囲のリンパ節へ大きさ5cm未満の転移がある状態です。この状態でも、セミノーマであれば90%以上の確率で根治が可能です。治療法としては、リンパ節転移を摘出する手術を行うことがありますが、目に見えない転移を生じている可能性も高く、放射線治療あるいは抗がん剤による化学療法を行うことが一般的です。セミノーマでは、化学療法による治療を実施した場合、画像上転移が完全に消失しなくても、3cm以下に縮小すれば、腫瘍細胞が残存している可能性は低く、手術は実施しなくてもよいとの考え方が、一般的になりつつあります。また、残存腫瘍の有無の確認のために、PET検査が有効との報告もあります。

3)IIB期およびIII期

この病期には、精巣に関しては、他の病期と同様の高位精巣摘除術が行われます。しかし、転移巣に対しては、転移した腫瘍が大きい場合は、その周囲の組織ごと手術で切除しなければならず、正常部位へのダメージが大きいので、基本的に抗がん剤による化学療法が行われます。

導入化学療法(精巣腫瘍に対し有効性が確立された標準的化学療法シスプラチン・エトポシド・ブレオマイシンの3剤併用療法(BEP療法))終了の段階で画像診断を行って、腫瘍が消失していれば、そのまま経過観察となります。たとえIII期であっても、セミノーマの場合導入化学療法を完遂できれば完治が期待できます。しかし、副作用のため、化学療法が予定通りに実施できなかった場合や、骨や脳に転移がある場合など、治療が非常に困難なこともあります。化学療法の結果、腫瘍が完全になくならなかった場合でも、腫瘍マーカーが正常の範囲に戻っていれば、追加の手術を行って、可能な限り病巣を全て取り去ることが勧められています。手術で切除した組織を検査した結果がん細胞が見つかった場合には、さらに化学療法が追加されます。なお、セミノーマに対する化学療法では腫瘍の大きさが明らかに小さくなることが多く、IIA期と同様に追加手術を行わずに経過観察となることもあります。

3.非セミノーマの治療

1)I期

非セミノーマの場合も、まず高位精巣摘除術が行われます。非セミノーマはセミノーマと違い、放射線治療が有効でないかわりに、I期の再発率は非セミノーマよりも低いことが知られています。そのため、精巣腫瘍の病理診断において、脈管侵襲(精巣から静脈やリンパ管側に広がっているかどうかということ)がなく、また5年間以上の長期にわたって通院、検査を続けることが可能な場合には、経過観察とするのが一般的となります。脈管侵襲がある場合には、再発の危険性が高いため、化学療法を追加することがあります。

2)IIA期およびIII期

これまで述べてきたように、非セミノーマでは放射線治療の効果が期待できないため、初期治療として選択されることはありません。従って転移のある非セミノーマの場合、精巣を摘出した後は、抗がん剤による化学療法が治療の中心となります。なお、非セミノーマの一部には、抗がん剤で完全に消滅させることが難しい奇形腫という成分が存在します。また、奇形腫は特有の腫瘍マーカーを持たないため、非侵襲的(ひしんしゅうてき)な検査だけでは完全に腫瘍が消えたかどうかを判断できません。そのため、奇形腫を含む可能性のある非セミノーマでは、化学療法後に腫瘍マーカーが正常な範囲に戻った段階において、大動脈周囲の後腹膜リンパ節を切除する手術を追加することが一般的です。一方、転移のある精巣腫瘍の2〜3割では、導入化学療法だけでは腫瘍マーカーが正常になるほどの効果が得られず、別の抗がん剤の組み合わせによる化学療法(救済化学療法)が行われることがあります。現在、さらにその次の治療法として、大量化学療法や新規抗がん剤による治療が行われています。

4.難治性精巣腫瘍の治療

化学療法を実施しないと完治が期待できない転移のある精巣腫瘍を、進行性あるいは難治性精巣腫瘍といいます。難治性精巣腫瘍に対しては、図4のアルゴリズム(正しい治療を実施するための具体的手順)に基づいて治療を進めていくのが一般的です。しかし、化学療法の副作用で予定通りの治療ができなくなったり、導入化学療法で腫瘍マーカーの値が正常化しなかったりする場合などは、治療はかなり困難となります。また、腫瘍マーカーが陰性化したとしても、化学療法後の残存腫瘍切除術は非常に難易度の高い手術となる場合が多く、高度な技術と経験が必要とされます。従って難治性精巣腫瘍の患者さんは主治医とよく相談し、病状および治療計画を十分理解された上で治療を受けられることを強くお勧めします。また、疑問点があれば、他院の専門医に話を聞きに行くセカンドオピニオンも有効な手段ですが、精巣腫瘍の進行は速いので、迷っているうちに治療のタイミングを逃さないように早急に行動することが大切です。
【図3 進行性・難治性精巣腫瘍の治療アルゴリズム】
図4 進行性・難治性精巣腫瘍の治療アルゴリズムの図
日本泌尿器科学会編「精巣腫瘍診療ガイドライン2009年版」(金原出版)より作成
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更新・確認日:2013年03月26日 [ 履歴 ]
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1.手術(外科治療)

1)高位精巣摘除術(こういせいそうてきじょじゅつ)

精巣腫瘍の患者さんに対して、基本的に全員に実施される手術です。精巣は、血管と精子の通る精管が束になった精索(せいさく)という管でおなかの中につながっています。精巣腫瘍は、この精索を通り転移することが多く、精巣を摘出する際には精巣だけでなく、この精索の上の方まで取り除きます。この手術方式が、高位精巣摘除術といわれています。

2)後腹膜リンパ節郭清術(こうふくまくりんぱせつかくせいじゅつ)

後腹膜リンパ節とは、おなかの大血管周囲にあるリンパ節です。精巣腫瘍ははじめにこのリンパ節に転移を起こすことが多いため、転移のないI期の場合でも、再発を防ぐ目的でこの部分のリンパ節とその周りの組織を取り去る手術が行われることがあります。この手術を後腹膜リンパ節郭清術といいます。また、最初から後腹膜リンパ節に転移がある場合は、化学療法によってがん細胞を十分に死滅させてからこの手術を実施します。精巣腫瘍に対する化学療法後の後腹膜リンパ節郭清は難易度の高い手術の1つとされていますので、場合によっては症例数の多い専門病院で受けられることをお勧めします。

3)転移巣切除術

精巣腫瘍は早期に肺に転移することもありますし、脳や肝臓への転移が認められることもあります。セミノーマの場合は、化学療法や放射線治療の追加で転移巣を含めて完治することがあります。しかし、非セミノーマの場合は異なり、化学療法でがん細胞を死滅させても、画像診断で転移が残存していた場合は、転移巣から再発してくる可能性が高いので、可能な限り摘出手術を実施した方がよいとされています。

4)手術後の射精障害について

後腹膜リンパ節郭清術を受けた後に、逆行性射精という障害を起こすことがあります。逆行性射精とは、射精したときの感覚に変化はないのに、精液が外に出てこないという状態です。精巣腫瘍は若年者に多いため、男性不妊症の原因となる逆行性射精が問題になります。 手術の範囲によって状況が異なり、必ず射精障害が発生するとは限りません。また、障害の程度にも個人差があります。病気の広がりによっては、射精機能を残すような神経温存手術も可能です(ただし、特殊な手技なので実施施設は限られています)。また、逆行性射精があっても、残された精巣の機能が正常であれば、精巣から直接精子を採り出すことによって、多くの場合妊娠は可能です。病気を完全に治すために、必要な手術と逆行性射精のリスクについて、手術前に担当医から十分な説明を受け、パートナーとも話し合ってください。
【治療前の精子保存について、さらに詳しく】
精巣腫瘍に対する治療では、腫瘍がある側の高位精巣摘除術が標準として行われています。通常であれば反対側の精巣は温存されるので、造精機能(精子を造り出す機能)は維持されます。しかし両側の精巣を切除する場合や、手術後に放射線治療や化学療法を行う場合は、精子の凍結保存という方法も考えられます。抗がん剤治療の前に精子を保存するのは、化学療法後最低2年間は正常な精子はできなくなるとされ、特に大量の抗がん剤を使用した場合は、造精機能が完全に失われる場合もあるからです。特殊な方法で精子を凍結保存することによって、数年間保存することが可能で、必要な場合に体外受精に使用することができます。また、精子自体が少ない疾患を伴っている場合は、精巣内の精子採取術を行うこともあります。担当医とよく相談してみましょう。
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2.化学療法(抗がん剤治療)

1)化学療法の適応

明らかな転移のないI期でも、再発の可能性が高い場合や、転移のあるII期以上の多くは、化学療法が行われます。 精巣腫瘍は化学療法の効果が非常に高いとされ、転移のある場合でも、化学療法を中心とした集学的治療により根治が期待できる数少ない悪性腫瘍の1つです。ただし、転移のある非セミノーマの場合、術後の化学療法(参照:術後補助療法)のみでは治らない場合も多く、化学療法後の残存腫瘍に対する再手術が必要となることもあります。また、明らかな転移のないI期でも、転移や再発の可能性が高い場合は、化学療法が実施される場合があります。

化学療法では、多くの場合複数の作用の異なる抗がん剤を組み合わせて治療を行います。治療の効果を把握するために、画像検査により腫瘍の縮小の有無や、血液検査による腫瘍マーカーの値の変化を調べていきます。治療に用いる抗がん剤によって、起こる副作用は異なります。

2)抗がん剤の副作用

精巣腫瘍に対する化学療法は、根治を目指して実施する治療であり、比較的大量の抗がん剤を使用します。従って治療中の副作用は、他のがんにおける治療と比べてかなり強い部類に入ります。
【治療前の精子保存について、さらに詳しく】
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、血液を造り出すもとになる骨髄などの新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球赤血球血小板の数が少なくなったりすることがあります。その他、吐き気や心臓への影響として動悸(どうき)や不整脈が、また肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。しかし現在では、抗がん剤の副作用による苦痛を軽くする方法や、対処のための薬剤の使用が実施されるようになり、以前のように重篤な副作用が出現することは減少しています。また、多くの副作用は、治療を終了あるいは中止することによって改善しますので、副作用が著しい場合には、治療薬の変更や治療の休止、中断などを検討することもあります。
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3.放射線治療

1)放射線治療の適応

放射線治療は、腫瘍に放射線をあてることで腫瘍細胞を傷つけ、腫瘍を小さくする治療です。セミノーマでは放射線治療が特に有効とされ、I期のセミノーマの再発予防のためとII期のセミノーマの比較的小さなリンパ節転移に対して放射線治療が行われることがあります。一方、非セミノーマでは放射線治療の効果があまり期待できないため、初期治療として選択されることはありません。また、精巣腫瘍は転移しやすいがんであるため、照射した範囲以外には効果があらわれない放射線治療は、転移巣が大きく広がっている場合、通常は行われません。セミノーマI期では、腹部の傍大動脈領域から手術で腫瘍を取り除いた側の鼠径部(そけいぶ)へ、20〜30Gy(グレイ)の照射を行います(図4)。後腹膜転移巣が大きさ5cm以下のIIA期では、腫瘍を中心とした腹部を中心に、30〜36Gyの放射線照射が実施されることがあります。
図4 精巣腫瘍の放射線治療
(右の精巣腫瘍における治療例)
図4 精巣腫瘍の放射線治療(右の精巣腫瘍における治療例)の図
【放射線治療に伴う主な副作用について、さらに詳しく】
副作用は、放射線が照射されている(された)部位に起こる皮膚炎・粘膜炎などや、照射部位によらず起こるだるさ、吐き気・嘔吐(おうと)、食欲低下、白血球減少などがあります。精巣腫瘍の場合は、下痢、直腸炎や膀胱炎などが起こることがあります。セミノーマは放射線の感受性が高いために、放射線の照射線量は他の腫瘍より低めに設定されることが多く、他のがんの放射線治療に比べて短期的な副作用は軽微な場合がほとんどです。しかし、若年者に多い腫瘍であることから、放射線の長期的副作用(晩期合併症)も十分に考慮するべきとの考えもあります。また、患者さんによって副作用の程度は異なります。
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更新・確認日:2012年10月26日 [ 履歴 ]
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2012年10月26日 更新履歴を追加しました。内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1996年08月28日 掲載しました。

1.経過観察

治療を行った後の体調確認のため、また転移再発の有無を確認するために定期的に通院します。再発の危険度が高いほど頻繁、かつ長期的に通院することになります。精巣腫瘍は、初期の段階で治療を受けても、再発の危険性があることが知られています。そのため、定期的な通院が必要となります。

2.通院の頻度

治療後1年以内は毎月、2年目は2ヵ月ごとというようにスケジュールを決めて、腫瘍マーカーの測定、胸部X線検査、CT検査などを行います。また、治療後長い期間が経過した後に再発することもありますので、5年目以降も年に1回は検査が必要です。
更新・確認日:2012年10月26日 [ 履歴 ]
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2006年10月01日 内容を更新しました。
1996年08月28日 掲載しました。

1.転移

転移とは、腫瘍細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。I期の精巣腫瘍を手術で全部切除できたようにみえても、その時点ですでに腫瘍細胞が別の臓器に移動している可能性があり、手術した時点では見つけられなくても、時間がたってから転移として見つかることがあります。

例えば、精巣腫瘍の転移によって、腹部大動脈や大静脈の周囲のリンパ節が非常に大きくなった場合には、みぞおちのあたり(心窩部(しんかぶ))に硬い大きなしこりができ、このしこりによって腰痛が起こることが知られています。また、肺への転移が多数ある場合は、息切れが強くなる、咳(せき)とともに血液の混じった痰(たん)が出るといった症状があらわれます。

精巣腫瘍は抗がん剤による治療効果が高いため、転移をしている場合でも、化学療法による治療を行うことで治る可能性があります。また、脳転移に関しては、外科手術や放射線治療が選択されることもあります。

2.再発

治療によって目に見える大きさの腫瘍がなくなった後、再び腫瘍が出現することを再発といいます。精巣腫瘍の場合、精巣はすでに摘出されていますので、再発はリンパ節や肺への転移という形で出現します。再発といっても、それぞれの患者さんで病気の状態は異なります。病気の広がりや再発した時期、これまでの治療法などによって総合的に治療法を判断する必要があります。それぞれの患者さんの状況に応じて治療やその後のケアを決めていきます。
再発や転移、痛みが強いときの治療については、以下の項もご参照ください。
がんの再発や転移のことを知る
がんの療養と緩和ケア
痛み
がんの再発に対する不安や、再発に直面したときの支えとなる情報をまとめた冊子です。がんの再発という事態に直面しても、「希望を持って生きる」助けとなりたいという願いを込めて、再発がんの体験者、がん専門医らとともに検討を重ねて作成されたものです。 もしも、がんが再発したら 冊子